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省エネ建築に対する中国の勢いの凄さ、今のままでは日本はますます省エネ後進国になってしまう
2019.10.15
はじめに
省エネについて
2019年10月8〜12日の間、中国の北京郊外のWINDOOR CITYで開催された第23回 パッシブハウス国際カンファレンスに日本のパッシブハウスジャパンの仲間15人で参加しました。
パッシブハウスというのは、太陽光など無限で手に入るエネルギーを中心に家の中の快適性を作り出す形状の家のことをいいます。
例えば、南側の窓の上には、適度な長さの庇があると、太陽高度の高い夏の太陽光を遮り、太陽高度の低い冬の太陽光を暖かく家に取り入れるなどは、その代表的なものです。
こういった基本的な考えから、出来る限り光熱費のかからない建築でかつ、建築を構成するすべての部材の製造エネルギーを抑えて作るという技術レベルに高めた設計手法を用います。
パッシブハウスには明確な基準があり、それをドイツのパッシブハウス研究所が作り上げ、2010年時点では、まだまだ個人活動の域を出なかった活動が、2019年の時点では、世界中に広がり、このパッシブハウス基準を取り入れた建築群が多く誕生しています。
世界中に広がっている建築の省エネ基準がいくつかありますが、パッシブハウス基準もそのうちの一つです。そして、このパッシブハウス基準はこの数年でかなり世界的な影響を持ちはじめました。
その理由の一つが中国です。
中国が国の政策として、パッシブハウスを取り入れたからです。
今回の国際カンファレンスは、ドイツ以外の初めての開催ということと、隣国であること、そしていま勢いがある中国を肌身に感じようと思い、参加をしました。
日本からは先ほども言いましたが、パッシブハウスジャパンのメンバー15人で行きましたが、今回パッシブハウスジャパン代表理事の森みわさんのプレゼンもあり、黒部のプロジェクトの話を英語でされました。とてもわかりやすい内容で、他は技術者のプレゼンが多い中、建築家として踏み込んだ内容がとてもよかったです。日本人のスピーカーが一人という中、最後には優秀なプレゼン賞もいただいていたので、国際的にも評価されて日本人としても誇らしく思いました。
Contents
現在の中国の状況は・・・
2019年10月初旬に70周年を迎えた中国は今、都心部を中心に環境改善に全力を注いでいる印象があります。ガイドさんが「70周年記念に向けて急ピッチで整備していた」と言います。
北京はマスクをしないと過ごせないと聞いていましたが、今はそんなことはなく、金曜日の夜は、誰もマスクをせず、アフターファイブを楽しむ市民で街中は賑わっていました。
昔のイメージだった、自転車群もおらず、走っている車は、新しい車で高級車ばかりが目につきます。貧富の差は極端にひどいのでしょうが、街としては緑も多く、北京は環境配慮都市として姿を変えつつある印象を受けました。
今の中国を一言で例えると・・・
とにかく、勢いがあります。
国レベルで、パッシブハウスを取り入れる動きは、世界の中で、最も勢いがあるでしょう。カンファレンスのオプショナルツアーで訪れたパッシブタウンは、高層棟でも10棟近く、低層棟も同じぐらいあったと思いますが、それぞれの建物がすべてパッシブ認定を受けているという大開発タウンです。北京から約一時間南南西の方位にあります。
建物の施工レベル、計画レベルでみると、正直、、レベルは高くありません。
例えば高層棟には、約30戸にエレベーターが1機しかありません。
パッシブハウスといっても、外壁の外断熱、高性能サッシ、給気冷暖、ソーラー付き電気温水器など、日本のパッシブハウスと比べてもとてもシンプルなものです。
サッシの施工も水切りが逆勾配になっているところも平気であります!
「あ〜、だから中国は・・・」で、日本人は片付けるかも知れませんが、私は、これは日本が高度成長期に、トライ&エラーを繰り返しながら、勢いをもって発展していった、まさにその国が一気に成長していく姿と酷似すると感じました。
なぜ中国がここまでパッシブハウスに力を入れているかというと
この数十年、一気に経済発展をさせてきた中国ですが、PM2.5の問題など多くの環境問題を生み出しました。そして今から20年くらい前に、ある省で、出来るだけエネルギーを使わない建物を作り上げました。そしてその建物をファイスト博士たちが研究しはじめたのがきっかけでパッシブハウス基準が作り上げれました。ですので、パッシブハウスと中国自体も切っても切れない関係なのです。
北京から南西に200kmぐらい離れた保定市のホテルに泊まりました。
正直、インフラの関係は微妙で、まだまだそちらの整備が先だろうという思いもありましたが、そんな順序立てて物事は進みません。全てに勢いを持って進めているのが今の中国です。
それに対して今の日本はどうでしょうか?2020年に省エネ基準の義務化の話が流れて、説明義務だけになるというなんともお粗末な結果になっています。
「日本はこのまま省エネ後進国として姿を消していく・・・」
今回、パッシブハウス研究所のファイスト博士は、愛情ある温かい目で、この厳しい言葉を日本の私たちにくださいました。パッシブハウス関連の出展ブースもたくさん出ていましたが、その数は数百に上ります。そのほとんどが中国企業で、日本で出展していたのはパナソニックだけでした。
現在の日本でパッシブハウスの関連企業が日本で出展しても数十どまりでしょう。その勢いと規模の違いを肌身で感じますし、ファイスト博士も、日本に頑張ってもらいたいという思いで、言ってくださったんだと思うと、気が引き締まる思いがします。
日本のパッシブハウスジャパンに所属している設計事務所や工務店や企業なども、日頃勉強会や見学会を重ねながら、パッシブハウスやそれに追従するレベルの建築を作ることに切磋琢磨しています。
日本には、それ以外にも省エネ建築を作るために切磋琢磨している団体もありますが、中国と単純に比較すると、比較になりません。
じゃ、どうすればいいのか?
考えられるのは2つ。
一つは行政を巻き込んでパッシブハウスに取り組んでいく方法。どこかの市町村がパッシブタウンを作り、その街の強みにいていくことに理解がある行政が出てくればベストです。もう一つは、パッシブハウス基準をクリアーした単体やいくつかの建築群が、建築業界や一般の人に評価され認知される方法です。
それ以外には、この取り組みがTVなどのマスメディアに取り上げられ、多くの人にこの必要性を感じてもらうことでしょう。
しかし、自分ごととして捉える日本人は少ない
行政が動かないのなら、個人一人ひとりの認識が高まる必要があります。
しかし、これが難しい。難しいといっていたら、何も進まないのですが、あまりにも日本人の環境に対するリテラシーが低すぎるのが事実です。
住宅に対するリテラシーが低いのも特徴です。
環境や住宅は、人生を豊かに幸せにする重要なものの一つにも関わらず、自分のことで精一杯になって、我関せずという人が多いのです。
ここに関しては別の記事「省エネ化、高気密高断熱化があなたの生活に直結してくる側面とは?」をご覧ください。
ファイスト博士からいただいたメッセージ
「次回、日本に行く際には、ぜひ広島に行きたい」
広島に住む私としては、身が引き締まる思いでした。エネルギー問題において、福島、チェルノブイリ、広島、長崎などは直接放射能の被害を受けたエリアとして、意識を外すことができない場所です。
現在、中国では50基の原子力発電所が新たに計画されているという話も聞きますが、このうちの一つでも地震などにより放射能漏れを起こせば、中国の多くのエリアと日本は住むことが困難になります。
「火をつけることができるが、火の消し方を知らない」
というのが、今の人類の原子力を扱えるのと同意のレベル。
原子力を減らし、再生可能エネルギーの比率を高めて行くこと、電力や火力の無駄遣いを減らす活動がとても重要です。
また、CO2削減には、「ガールエフェクト」(女性の教育水準、生きて行くための賢い知恵の習得)が、非常に有効だということも分かっています。
一人一人が具体的に出来ること
では、具体的にできそうなことはどんなことがあるでしょうか?
いくつか箇条書きであげてみます。
・10年以上使っている家電製品を消費電力の小さいものに買い換える
・夏場、日射がきつい窓の前にすだれを垂らす
・家を手に入れるのなら「省エネ」の家にする
・夏暑くて、冬寒い家は断熱の改修も視野に入れる
・内窓を入れる(※断熱とのバランスチェックが必要なため専門家に相談すること)
・廃棄物を極力減らす
・女性が生活弱者にならないようサポートする
その他にも率先してできそうな事をやってみることが大切です。
施工会社、設計事務所の皆さん、一緒にやっていきませんか?
2020年の省エネ義務基準の見送りの背景には「そのレベルの技術についていけない中小零細企業が多いから」があると言います。
2020年に義務化される予定だった省エネ基準は、他の省エネ先進国がすでに義務基準にしているレベルの7割ぐらいの性能しかありません。
この義務基準化だけは、国が無料講習や講習の義務化などを実践して早急に対処すべき問題です。
しかし、国に求めているだけでは進みません。
確実に、これから5年以内に省エネ建築の波がやってきます。
その時に、施工会社や設計事務所が生き残っているけるかは、他人任せにするべきでなく、その自体に備えるべきです。
今から10年前に、省エネの頃を学ぶのに対して、現在では随分実績や実例も出来て取り入れやすくなっています。
そういった事も含めて、一緒にやっていきませんか?
パッシブハウスジャパンのHPはこちらです。
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この記事の著者
八納客創(やのけいぞう)
一級建築士 G Proportion Architects 代表。
一級建築士 G Proportion Architects 代表。
「快適で居心地よく洗練されたデザイン空間」を探求している1級建築士。「孫の代に誇れる建築環境を作り続ける」をビジョンに、デザイン性と省エネ性、快適性を追求する一般建築を、そして住宅設計では「笑顔が溢れる住環境の提供」をコンセプトをもとに、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。